テトラの穴釣り名人の話

色鮮やかなアラカブ

錦江湾にある某テトラで、ある御仁に出会った。そのじいさんはテトラポッドをなれた足取りで渡り歩きながら、テトラの隙間から足元に仕掛けを投入してなにか釣っている。

じいさんがやっているのは、短い竿を使ってテトラとテトラの間に仕掛けを落とし魚を誘っていく、いわゆる穴釣りというやつだ。

そのじいさんはいかにもベテランの釣師といった風貌で、クーラーボックスも持たず、手作りの1mほどの長さの竿に不釣り合いなでかいリールを装着している。背中には大きなリュックサックを背負っていて名人の風格を漂わせている。

はじめ離れて釣っていたのだが

なぜか僕のそばに寄ってきてすぐ横で穴釣りを始めた。広いんだからもっと離れろよ〜。とか思ってると僕の真後ろを横切りながら突然話しかけてきた。

じいさん「釣れますか?」

僕「オオモンハタが1匹ですね〜」

じいさん「ハタ?どのくらい?見せて」

ハタという言葉に食いついてきて獲物を見せろというじいさん。大きくないんですけどね、と言いながらさっき釣れたばかりの30cmちょいのオオモンハタを見せると、

じいさん「ああ、そのサイズね」

じいさんの中では大したサイズじゃなかったみたいだ。

僕「もう一回り大きければ良かったですけどね」ほんとは釣れて嬉しかったが悔し紛れにそう言った。

そのままいろいろと釣りの話をさせてもらった。

普段は別な場所に通っているという

聞けばじいさん、穴釣りしかしないらしく普段は別な堤防のテトラに通っているらしい。若い頃はかなりの大物釣師だったようで、メータークラスのシマアジを堤防から命綱を付けて釣ったんだとか、ハタも馬鹿でかいのを釣りまくったとか、豪快な釣りをしていたらしい。

で、今はテトラの穴釣り専門になって主にアラカブを釣っているらしい。他にも伊勢海老の1kgクラスをこないだ釣ったとか、アラ(たぶんクエかマハタのこと)のこんなのが釣れたと手で80cmほどのジェスチャー作ってみせる。

伊勢海老は別としてテトラの穴釣りでヘタしたら10kgクラスの魚が釣れるとは。じいさんの猛者っぷりにビビりながら、さらに話を聞くとやはり釣れるのはほとんどアラカブらしく、30cmクラスはよく釣っているとのこと。

スゲーな。穴釣りでそんなのがホイホイ釣れるのか。

話はアラカブの乱獲へ

アラカブの穴釣りは僕の趣味ではないけど、数とサイズが出ると聞くと興味が湧く。ほんとにそんなに釣れるのか聞いてみると、

僕「アラカブも最近あんま釣れないですよね。穴釣りだと釣れますか?」

じいさん「昔に比べたら釣れんよね。乱獲よ・・」

少しさみしげにつぶやくじいさん。その表情からは釣りの酸いも甘いも噛み締めてきた名人だからわかる複雑な思いが伺える。

乱獲。アラカブに限った話ではないけど、昔より魚が釣れなくなったという話はよく聞くし、僕自信もそう感じている。確かにアラカブは簡単に釣れるし味もいい魚だ。数はこれからも減っていくだろう。

他にも釣りについていろいろ話を聞き、この場所だと少し先に漁礁が入れてあるからそこを狙えば大きなのが釣れる、といった非常に有益な情報を聞かせてくれた。

ひとしきり話した後、お互いに釣りを再開し反対方向へとランガンして徐々に距離が離れる。少し離れた場所からじいさんの方を見ると、何やら魚をぶら下げて僕にアピールしている。

僕がアラカブですか〜?と叫ぶとそうだ、という答え。やっぱりうまいなじいさん、とか思いながらさらに移動し続けもう完全に見えなくなった。

乱獲

テトラの切れるところまで釣り進んだところで、元いた方向へと釣りを続けながら戻る。オオモンハタを1匹追加したところで再びじいさんと合流する。

僕が釣れました?と聞くとじいさん、背負っていたリュックを下ろし、中から魚の入った袋を見せてくれた。そこに魚入れてるのかよ!と戸惑ったが袋には20〜30匹くらいだろうか、大小沢山のアラカブが入っていた。

「乱獲やないかい!」

心の中で思わずそう突っ込んだ。